生物技術者連絡会通信 2023年9月号

生物技術者連絡会通信 2023年9月号

 

<生物技術者のための名所案内〜直江谷健康の森

 金沢市はよく森が多くて自然豊かな都市だと言われますが、千葉県から移ってきて5年間住んできた私の印象はちょっと違います。確かに街の真ん中には城址公園と兼六園という広大な緑地があり、街中には大きな屋敷林や庭園を持つ古いお屋敷が散在しているんですが、どれも手入れが行き届いた人為的な影響が強い緑地です。私の印象を一言でいうと自然豊かな都市というよりも「庭園都市」ですね。そのような環境で育った方々が多いせいか、よそ者から見ると金沢人は自然豊かな深い森に行って自然を楽しむという意識が薄いように見えます。いやむしろ、マムシやクマが出る場所なんか行きたくないというか、人が行ってはいけない場所だと思っているフシがありますね。

 そんなわけで、関東平野なんかに比べると多様性が段違いのような自然林を散策できる自然公園が市内の各所にあるのに、そこを訪れても会う人は夏の土日でもまばらです。実にもったいないですね。せっかく新幹線が通って気軽に来れるようになったので、そういう場所を皆さんに紹介しておきましょう。今回は「直江谷健康の森」です。場所をGoogleマップの3D地図で示すとこんな感じ。

 図中の左端、金沢駅からは5kmほど真東の位置にあります。車だと30分くらいです。森の北側にある小さな盆地は古くから直江谷と呼ばれているところですが、ここは段々に並んだ水田の中の所々に集落が点在するという、何だか桃源郷という文字を連想させる場所です。では駐車場がある入口から森の中へご案内していきましょう。

 森の出入口には広い駐車場があります。簡易トイレもありますね。ちなみに今まで10回以上訪ねてますが、駐車場に車が2台以上止まっている光景を未だに見たことがありません。写真の左上、チェーンがかかっている道から森に入っていきます。入口の横にある案内板にはコース図が示されています。

 以前、春に来た時にこの入口から入ろうとしたら奥からアナグマが堂々と道の真ん中をこっちに向かって歩いてきました。

 何だか、「ワシの森に何しに来た?」と言ってるみたい。森に入ってほどなく、道は未舗装の感じの良い散策道といった風情になります。歩く人がほとんどいないからか、道の真ん中にでっかいキノコが生えてました。

 妖精の家みたいですね。さらに行くと案内板にあった最初の分かれ道があります。ここは左方向へ歩いて行きましょう。

 やや上り坂の道を数分歩くと展望台につきます。ここから直江谷の全景が見渡せるんですが、これがもう絶景!

 時代に取り残された隠れ里、といった風情です。思わず住んでみたいと思ってしまいます。

 しばらく見とれてから先へ進もうとすると、三つ目の分かれ道が現れます。ここは右方向に向かいます。やがて休憩場所のあずまやを通ると道は谷筋に向かって急降下します。

 谷に下りきるとそこは太いスギが並ぶ湿ったくぼ地で、早春にはキクザキイチゲエンレイソウが絨毯のように咲きほこる場所です。9月なのでこれらは咲いてませんでしたが、ツリフネソウが満開でした。くぼ地を抜けると道は尾根の鞍部に向かって登っていき、鞍部で道が合流します。

 左方向の階段道を登っていくと展望台を通って駐車場に戻れます。全行程に要する時間は40分程度です。

市街地から駐車場へは狭く細い林道を延々と辿っていきます。もし訪れたいとお考えの節はご連絡ください。冬季は閉鎖されますので訪れることができるのは3月下旬から11月末あたりまででしょうか。お勧めの時期はキクザキイチゲが咲く3月下旬から4月上旬ですね。

 

<有害動物の話⑤~スズメバチ

 夏が終わって秋に向かっていく時期はスズメバチに刺される被害が増えてくる時期です。人間に危害を与える野生動物といえば最近はクマがよく話題に上りますが、年間の死亡事故例数として最も多いのはスズメバチで他の動物を圧倒してます。つまり、現時点では人類最凶の野生動物というわけですね。種類として事故事例が多いのはオオスズメバチとキイロスズメバチでどちらも性格が狂暴、キイロスズメバチは建物にもよく営巣するので最も注意が必要とされてました。

 しかしながら最近では二つほど、気になる傾向が生じています。一つはオオスズメバチの都市化です。本来オオスズメバチは森林が生息場所で大きな木の根元に営巣するとされていましたが、最近では都市部での生息営巣事例がかなり報告されています。具体的には公園や道路際の植え込みでの営巣事例が多いようです。オオスズメバチはキイロスズメバチの巣を襲って全滅させる行動が知られていますので、キイロスズメバチの都市化に追随する形で都市部に進出してきているのではないかという説もあります。

 もう一つは戦略的外来種であるツマアカスズメバチの侵入と拡大です。中国南部、台湾、東南アジア等に生息するスズメバチですが、温暖化の傾向に乗ってか最近は分布を拡大、2012年には対馬で侵入・営巣が確認されました。2023年の現時点では九州から中国(山口県)までで生息が確認されています。このスズメバチは大きさはキイロスズメバチとほぼ同じで、建物内にも営巣します。最近の知見では巣が小さいうちは家屋内の狭い場所で営巣、働きバチの数が増えたら屋外の高い木の上に移動して大きな巣を作るんだそうです。キイロスズメバチはずっと建物に営巣するため駆除して巣を撤去する作業は割と容易なんですが、こちらは巣を撤去するのに高所作業車が必要になるので大変な作業になります。キイロスズメバチと同じ大きさですが体色が全く違い、全体的に黒っぽく腹部が鮮やかなオレンジ色ですので、それらしいハチを見かけたら是非環境庁か最寄りの自治体までお知らせください。環境省による啓発チラシはこちらです。

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://kyushu.env.go.jp/content/000115937.pdf

 最後に気になる話をもう一つ。今年は全国的に降雨量が少ない場所が多くなっています。研究者によると空梅雨の都市にはスズメバチの被害例が増える傾向があるそうです。なんでも夏季の大雨が小さい巣の間引きに貢献していて、結果的に大きく育つ巣の数を減らしているんだそうで。今年の秋は特段に気を付ける必要があるかもしれません。 

 

<いきもの写真館No.152 ツリフネソウ>

 直江谷健康の森で見かけたものです。夏も終わりになると暗く湿った森の中では目立つ花がすっかり少なくなりますが、その中でも赤く目立つのがこのツリフネソウ。枝から花がブラブラつり下がっている形からこの名がついたそうですが、改めて見ると本当に面白い形ですねー。関東でも普通に見られます。

 

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生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.com

 

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