生物技術者連絡会通信 2023年6月号

生物技術者連絡会通信 2023年6月号

今月のデータ 〜 金沢城公園のモリアオガエル繁殖状況2023

 今年も見てきました。金沢城公園に棲むモリアオガエルの産卵状況です。2020年からの4年間のデータをとりまとめた表をご覧ください。

 


 今年は6月初めから雨が多く気温も高かったためか卵塊の初確認日が過去3年よりも早く、一部では5月30日の時点で卵塊が出始めていました。この4年間を見ると確認できる卵塊の数は徐々に減ってきているように見えます。年を負うごとに石垣に生えた草本が除草される、堀の中に魚(グッピーか?)が増える、誰が放したか不明だがカメ(なんとスッポンもいます)が入り込んで年々個体数が増加、今年から二の丸外堀の石垣上に御殿を復元建設中、等といった出来事を見てきました。年々減ってきているのは生息環境の悪化のせいではないか、彼らはこれからどうなるんだろうかと色々考えてしまうこの頃です。それではモリアオガエル君、また来年の6月にお会いしましょう。

   

<有害動物の話②~貿易問題にもなるマイマイガの大発生>

 最近話題となった有害動物の今についてご紹介するコーナーの第2回です。マイマイガというのは成虫の雄で翅開長4~6cmの全身暗褐色、雌で7~9cmの全身ほぼ白色。かなり大型のガで7月から8月にかけての真夏に成虫が現れます。下の写真は雌成虫と幼虫です。

WIKIPEDIAマイマイガ」から転載

岐阜県HPより抜粋

 

 雄成虫が飛ぶ姿がひらひらと舞うように見えることからマイマイガ(舞舞蛾)、なんだそうです。ユーラシア大陸に広く分布しますが種類は同じもののヨーロッパ型とアジア型に分けられ、アジア型である日本では以前から8〜11年の間隔で大発生することが知られています。最近では2013〜14年に岐阜県や長野県あたりで大発生がありました。間隔的にそろそろかと思っていたら、2021年に長野県から報告が出始めて2022年には岐阜県にも飛び火。2023年には山梨県からもと報告が頻発してきました。もはや大発生期に入ったようで、過去の事例通りなら2〜3年は続きますから今年がピークになるかもしれません。このガ、かなり大きいうえに大発生したときの発生量が半端ありません。前回岐阜県で大発生したときの写真が岐阜県森林研究所と山梨県のHPに掲載されてましたので御覧ください。

岐阜県森林研究所HPより転載

山梨県HPより転載

 

 壁や支柱にびっしり止まっているのがそうでして、ただ止まっているだけじゃなく雄と雌が交尾して卵塊を産み付けてます。産み付けられた卵塊は剥がすのが非常に困難、高圧の水道水を吹き付けてもまったく落ちません。さらに、本種はドクガの親戚なので弱いながらも鱗粉や鱗毛に毒性があります。人によっては鱗粉や鱗毛を被ると皮膚炎になることがある、という最悪のシロモノです。さらにさらに問題なのが元々このガがいない北米に向かう船の積み荷や船そのものに卵塊が付着して侵入、天敵がいないので山林の樹木を食い荒らして山を丸裸にされてしまったという事態が生じていること。このため、アメリカとカナダでは日本で大発生した前科がある地域の港湾から渡ってきて入港する船舶に対してマイマイガの「沖合検査」を導入しています。植物検疫当局の承認機関による検査を事前に受けて「マイマイガ不在証明書」を取得すれば、その船舶の「沖合検査」は免除されます。筆者のいた会社では、愛知県にある大手自動車会社から車の輸出に使うどでかい運搬船RORO船といいます)にこやつらが付着していないか調査する方法がないか相談されたことがあります。

 今年の夏、大規模な大発生になるかどうかはなんとも言えませんが写真のようなひどい目には会いたくないですよね。前述した通り卵を産み付けられると除去するのが難しくなりますので、ご心配ならモニタリング調査を実施して、発生が予察されるようなら建物に集まってこないような予防的な対策をしておくことをおすすめします。その方法については専門家にご相談を。

 

<いきもの写真館No.149 アカテガニ

 前に一度ご紹介してますが、金沢市の海岸沿いにある普正寺の森にはアカテガニが多数棲んでいて、夏になると犀川の河口付近に集まって産卵する光景が見られます。産卵する時期のピークは8月、おそらく干潮時の夜だと思われますが彼らの巣穴(いわゆるカニ穴)は森の中の全域に散らばっています。冬眠からさめた彼らがどの時期から海岸に向かって動き出すのかは良く分かっていません。そろそろ気温が高くなり動き出してくるかなと思って、6月の中旬に現地へ出かけてみました。写真はその時のものです。巣穴の周りがきれいになっていたので目を凝らすと穴の奥に何やら影が…


 写真では穴の入り口付近に留まっているカニの姿が見えますね。歩いていると穴から半分くらい体を出していて、近づくとあわてて穴に入る姿もたくさん見ることができました。どうもこの時期、彼らは穴の周りをうろついているだけで遠くまでは行かないようです。今は体力を温存して、来るべき時期になったら一斉に海岸へGO!…ということでしょうか。普正寺の森って面積は狭いんですが割と起伏があって、巣穴から海岸までの間には山あり谷ありという感じのところもあります。森の中を縦横に通る歩道を歩くと急いで横切るカニを見ることはできますが、彼らにとっては結構険しい崖や渓流をどうやって乗り越えていくのかを見ることはできません。海岸に集まって産卵する光景を見たいのは当然として、巣穴から海岸へ一斉に動き出す光景もまたぜひ見てみたいものです。

 

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生物技術者連絡会 研究部会 邑井良守 yoshimori.murai@gmail.co

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